時里二郎詩集『ジパング』について/葉leaf
 
のが裏切られるのである。しかもそれは苦いのである。ここでも、食事は美味しいものを食べるものだという普通の期待が裏切られる。さらに大殿はそれを「読む」のである。このようにして時里は、世界形成の身振りを見せながらも次々と整合性への期待を裏切り、奇妙でグロテスクな擬世界を生み出すのである。
 ところで、この奇妙でグロテスクな擬世界はなぜか美しい。読者は時里の詩編を読んで戦慄を感じる。すごいと思う。これはなぜなのだろう。実際にこの引用部にあるような事態を目撃したら、我々は驚愕してものが言えなくなるだろう。それは著しく不快なものに違いない。だが、実際に存在したら不快であるような出来事も、それを虚構のものと
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