とりとめもないものは/ホロウ・シカエルボク
 
プレーヤーのターンテーブルの上にはレコードが乗ったままだった、じっと目凝らして見てみるとラベルにはベートーベンの英雄と書かれていた、えいゆう、と彼女は口を動かし、そこを離れて部屋を出た


埋もれた詩はそれでも綴られようとするだろうか
捨てられたカンヴァスは新しい色を求めるだろうか
なぞられない旋律は新しい声帯に擦り寄り
ままならぬ足はそれでも先へと踏み出すのだろうか


建物は美術館のように尊大な建築だった、ひとつひとつの柱は大きく、壁は厚く、天井は高く、そのすべてが墨のような黒で塗られていた、少女は廊下をうろつき、ドアを見つけると中に入ってみた、どの部屋にもほとんど同じものが
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