対岸/千波 一也
 

ふしぎな生きものが対岸におりましたので
わたしは急いで脱ぎました

なるべく丁寧に急いで
わたしはあらわになりました


しかしながら
湯茶の用意が整っておらず
先方はやや訝しげ

これはしまった、と
寒々しい桜を演じるしかないわたし

そんな
華麗な一部始終を
通りすがりの親子連れなどが
羨望の眼差しで
見ておりました


あたふたと
脱ぎ捨てた衣服やら肩書きやら魂やらを
集めていますと
置き引き!と、どこぞの貴婦人が叫ばれますので
いたしかたなくわたしは
ボディー・ブロー

ところが
どうやらわたしの所業は
物言いがかかったようで
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