夜と冬/木立 悟
 




蒼がふるえ 灰になり
灰がふるえ 手のひらになり
折れた蝋燭の火を護っている


時を迂回しようとして出来ぬ径
水に照らされる灯のない径
暗がりをすぎる異なる影
黒が黒に描く銀の径


絶え間なく降る何も無さが
常に横たわるものに最も近いのが今なのだ
そうわかっていながら わかっていながらなお
川の行方を見つめざるを得ないまばたき


絵の具を奪われた絵描きの横を
雨は通りすぎてゆく
人家のひとつひとつがけだものとなり
空を見上げ 白を浴びる


雷雲の輪に指を挿し入れ
弦の奏者は目を閉じる
海岸に並ぶ廃墟を覆う羽
すべての輪郭を
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