マウンドにて/まーつん
 
  ストライクが入らない
  言葉の投げ方を、忘れたから

  キャッチャーを
  キリキリ舞いさせながら
  交代を告げる声を、待ち望む

  変化球に入れ込みすぎて
  指の関節がイカれたらしい
  ボールの縫い目から滲み出る
  ひねくれた心の膿と、その臭い

  バッターが目を擦る
  俺の姿が掠れていく
  だって、嘘ばかり投げてきたから
  実態が浮かび上がらない

  誰にも
  本当の自分が伝わらないから
  どんどん孤独になっていく

  マウンドの上の透明人間
  観客は総立ちで息をのむ

  人が一人、霞のように
  掻き消え
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