あるミュージシャンの話/愛心
歩き続けてもうだいぶ経つ。
目の前で扉が閉まる音がして
思わず立ち止まって振り向いて
気づくんだ。
あれ、あれ、僕は一人ですね。と。
誰もいないよ、誰かいないの?
煙草の吸殻と、掠れたアスファルト。
錆びた匂いは、あの頃のまま。
汚れきった地面に両手ついて 膝をついて
落ちたそれに価値なんてないよ。
僕は君が欲しかったのです。
無垢なんてだいぶ昔の話。
ままごと遊びの延長で、僕は君の家族でした。
汚れたのは僕ですか? 君ですか?
草の匂いも、土の感触も、泥まみれの僕たちはどこですか?
青空もいつか届くものだと
願った彼は、屋上から飛び
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