あるミュージシャンの話/愛心
 
飛び降りました。
影踏みが好きだった彼女は
夜の町で蝶になりました。
お客様に蜜を与えて、代わりに宝石を手に入れました。

あの頃の僕たちはどこですか?
振り向いたって誰もいなくて

手のひらサイズのディスプレイには、名前だけが連なるもので。
薄っぺらな数百グラムに、思いも言葉も押し込めた。

懐かしいで終わらない。
大人になる覚悟があるのなら、帰っておいで。こっちに。

君の居場所はここでしょう?
僕の居場所もここでしょう?

汚れきったアスファルトの上で
他人の渦の真ん中で歌うよ。
下手なメロディと、震える声で、ただ、ただ、君に届きますように。

愛を歌うよ。君を歌うよ。
どうか少しでも届きますように。

どうか少しでも届きますように。
戻る   Point(1)