振り返ると/岩下こずえ
よらなかった。できるはずもないものに、自分を含め、人間どもみんな条件づけられていることを、こんな風にして思い知るとは、思いもよらなかった。
重い脚を引きずりながら、高台へ向かう地面の土くれをしっかりと感じながら、すこしずつすこしずつ歩を進め、ようやく頂上が近づいてきた。Kの両眼には、頂上の向こうに広がる、星空だけが、じぶんの歩みの確かさとあやまりのなさを示してくれるように思えた。そうして、アスファルトで固められた高台にたどり着いたとき、そこから見えた展望は、決して最初見ていたような希望に満ちたものではなかった。そこには、津波で流された港と家々と車や木や人間たちが、子どもが描く絵のようにして、ぐ
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