振り返ると/岩下こずえ
 
、3日間寝込み続けた合間に、その子は、洋式便器を通して排水管に流れて行ったことだろう。法律でどれほど堕胎が合法化される時期であろうとも、Kは、どうしても病院に駆け込むことができなかったし、それが“いのち”と認められずとも、だからといって、唾を排水溝に吐き捨てるかのように、きれいさっぱりと心から消し去ることもできなかった。だから、Kにとって、その流れて行った先は、蟻地獄のような汚濁の地底として以外に想像できなかったのである。ひとは、そんな沼地に足を置くことができるだろうか。できるはずがない。けれども、そこかしこにそんな雲泥があるのだ。Kは、まさかじぶんがそんな底なしにその脚を踏み入れるとは思いもよら
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