振り返ると/岩下こずえ
そこまで行こう。そこにいけばきっと、もう誰も手が届かないに違いない。
けれども、どうしたことだろう、走り続けたせいだろうか、もう膝がまるでハンマーのように持ち上がらなくなってしまっている。これ以上走ることはできないのか。それでも、Kは――逃げてきたはずなのに、あたかも過去をひきずるようにして――脚を垂れ下げて歩くほかないのだ。
Kは、胎児を流してきたのだ。どこにか。脚元にである。脚元の、その脚が眼差すその地底にである。
確かに、Kは、インターネットで韓国から格安で取り寄せた得体のしれない錠剤を呑んで、ひとしれず、堕胎したに過ぎない。小さなぼろぼろのアパートの一室で、うずくまりながら、3
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