振り返ると/岩下こずえ
振り返ると、そこには、誰もいなかった。だとしても、Kは走り続けなければならない。実際、立ち止まったそばから――といっても、もう諦めてしまったからその行く末は当然Kにはわかっていたことだったわけだけど――、一度あいつらに、まるで満員電車のなかで筋肉質の関取たちに取り囲まれるかのようにして、首根っこをつかまれたことがあったのだから、なおさらだった。どこからやってくるか、わかりやしない。でも、どこまで走り続けることができるだろうか。
それは、Kにもまったく見当がつかなかった。どれくらい走ったのだろう、数キロもあっただろう畦道過ぎたころには、もう外は真っ暗になっていた。遠くには、高台が見えた。あそこ
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