思い出の痛みは嘘になる/ホロウ・シカエルボク
なんだか心配になって、店が閉まるまで一緒にいたの。なんにも聞かないで、ただ彼の隣に座っていてあげた。少しは違うんじゃないかと思って。マスターが閉店の準備を始めに奥に引っ込んだ時だった。ジンが、いつもこうなるんだ、って、ぼそっと言ったの。いつもこうなるんだって。
「何回も今度こそって思った。でも同じだ。いつも同じところに引き戻される。ぼくは、どこかおかしいんだ。ちゃんと人生を生きることが出来ない。人間として何かが壊れているんだよ。」
なにがおかしいの、って、あたしは、お母さんみたいに聞いた。お母さんのことを思うだけで、少し心がざわついたけれど。ジンは答えなかった。泣いてるみたいな笑い方をして
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