思い出の痛みは嘘になる/ホロウ・シカエルボク
からあたし、つけてあげたのよ、ジンって。ジンを飲んでいたからね。彼は気に入ったみたいだった。
「ジンか。いいね。この街ではこの名でいくよ。」
あたしたちは乾杯した。それが、あたしとかれとのみじかい物語の始まりだったのよ。
それからあたしとジンは、ときどきファンタズムで隣り合わせてお酒を飲みながら(あたしはだれかに奢ってもらいながら)少しずつお互いのことを知っていった。と言っても、ここに来る前はどこにいたとか、どんなことをして暮らしてたとか、そんなことぐらい。だって、あんな若いうちからひとりであちこち転々としてる人生なんて、どう考えたって人に話したいような生い立ちのある人生に思え
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