思い出の痛みは嘘になる/ホロウ・シカエルボク
だから部屋を紹介したときも、条件付きでかなり安くしてあげたらしいわ。
ヒゲの話を聞きながら、あたしはあの夜のジンのことを思い出していた。ジンは、やり直そうとしていたのかしら。挫けるたびに街を離れて、名前を変えて。だけどそんなの逃げだしているだけだわ、やり直せるって幻想を追いかけているだけだわって、そんな気がした。楽しそうに話しているヒゲには少し腹も立ったけれど、だけどジンが死んだことだって、ヒゲのせいじゃないものね。
ジンのことが好きだったのかって?あたし、そういうのよく判らないのよ。ちいさなころから父親にいたずらされて育ったからね…それであるとき母親がキレちゃって、父親のこと
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)