眼差し/HAL
またしゃがんで名前を告げた
彼も小野と言いますと掠れた声で
名前と少し遠い住所を教えてくれたけれど訪ねるのは無理なので住所は聴き流した
何人もの通行人が
怪訝な表情でぼくらを見て通り過ぎる強い視線を感じたけれど気にはならなかった
ぼくは彼に気づかれないように
腕時計を盗み見た もう30分以上も経っていた
喋りつづけている彼の眼を見た
もうひとと話しをしたいという眼差しは消えていた
頃合いだった
ぼくは買ったものが腐ってしまうと想いついた理由を伝えて帰りますと告げた
彼は引き止めなかった
ぼくは生きていきましょうねと言い また見かけたら声を掛けると約束
[次のページ]
戻る 編 削 Point(9)