眼差し/HAL
約束をした
でもひとつだけ別れ際に彼に言った
この国じゃぼくらはお互いに助けあったり支えあわなきゃ生きていけませんからね
頷く彼を見ながら
ありがとなの声を聴きスーパーの袋を両手で持ちじゃあと残し彼の視界から出た
そういう眼差しをするひとがいる
映画でその眼差しができたのは“タクシードライバー”のロバート・デ・ニーロだけだ
でもそれすらに
気がつくひとはとても少ない 稀だといっても間違いではないけど幸せだとも想う
ぼくは滅多にしない
歩き煙草をしながら よそよそしく吹く秋風にきみもきっとそうだろうと問うてみた
もちろん答えはなかった
だけどか細い眼差しが弱いひとと決めつけるのは生に対してのルール違反だとぼくは呟いた
孤独な生活をしている人間は、いつも心に何かすすんで話したくなるようなことを持っているものである
(アントン・チェーホフ“恋について”より)
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