みたび めぐる/木立 悟
手のひらのなかの ひとつの歯ぎしり
籠の夜が来て
じっとしている
人を捨てたはずの人が
故郷を視て泣いている
白くなびくコロナの花
向こう岸の見えない川の冬
半分は午後
半分は風
霧をたたみ
光を吸い込む
夜の川の影
問い達の羽
曇の端を引き
視線は破ける
金と緑の袋の双子
長いあいだ会えない双子
空へ還りつづける吹雪
背を見ない午後の径
川に溶ける音の横
蛇口から蛇口へわたる蜘蛛
白と黒しかない日のふるえ
誰も泣いてはいないのに
冬の真昼の硝子玉
誰も映ってはいないのに
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