みたび めぐる/木立 悟
 
手のひらのなかの ひとつの歯ぎしり


  籠の夜が来て
  じっとしている
  人を捨てたはずの人が
  故郷を視て泣いている


白くなびくコロナの花
向こう岸の見えない川の冬
半分は午後
半分は風


霧をたたみ
光を吸い込む
夜の川の影
問い達の羽


曇の端を引き
視線は破ける
金と緑の袋の双子
長いあいだ会えない双子


空へ還りつづける吹雪
背を見ない午後の径
川に溶ける音の横
蛇口から蛇口へわたる蜘蛛


  白と黒しかない日のふるえ
  誰も泣いてはいないのに
  冬の真昼の硝子玉
  誰も映ってはいないのに
[次のページ]
戻る   Point(3)