散弾銃の硝煙の妄想と瞬きの間だけの小さな虹/ホロウ・シカエルボク
 
はわざわざ宣言なんてしやしないよ―薄汚れた公衆便所の便器に小便を引っかけると、個室の方から喘ぎ声が聞こえた、俺はまた大きなくしゃみをした、さっきのカップルだったら面白いなと思いながら…それにしても真昼間からこんなとこでよくやれるもんだよ、個室の中はしんと静まり返った、俺も静かにして便所から出た、それから小さな古本屋を覗いて、ゲーテの小説を買った、知ってるか?若きウェルテルの悩み、幾つも違う訳があるんだぜ、昭和初期のやつを読みなよ、終戦直後に出たやつさ、それが一番いい雰囲気を出してる、多少かしこまったものの方がゲーテにはちょうどいいんだ、俺の持ってるウェルテルはもうこれで五冊目になる、だけどどれを読
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