パターナル/salco
 
ねえし
なるたけそおっと鼻で息をしても
空気も肺へ下りては行かねえ
刹那の狼狽が引っ張り出したのは単純至極
状況を元に戻すという、最も稚拙なセオリーだった
元の鞘に収めるってわけだ
それで切れた血管が塞がるなんて甘い幻想が
大人の分別に働くわけはない
だが体内に異物がある、
特にどえらい傷害の元凶が在るってのは
理性の利かねえ不快千万なんだろうよ
これには大人も子供もありゃしねえ
畜生も人間もな
今生の覚悟で剣を引き抜いた


その、一生に匹敵する一瞬
親父は空を見ていた
ある晴れた日曜の
ほんの些細なブレが取り返しのつかねえ失態となり
人生を切り裂いた一瞬
[次のページ]
戻る   Point(13)