夏、プールにて。/時子
 
少しだけ撫でた。
トロは満足そうに、また「なぁー」といつものように気の抜けた声で鳴いた。

「それにしても、狭い海だわ」

女の子は言った。

「こんな狭い海を泳いだくらいでやれ
青春だと意気がって、他の世界を知らないのね。井戸の中の蛙と一緒だわ。」

「海じゃない。プールだよ。それに、泳ぐ事は本当に僕の青春だった…!」

反論したら、彼女は尾びれをピシャンとして僕を水浸しにした。
ひさしぶりの塩素の匂いのする水が甘かった。
びしょびしょの僕が怒る前に、彼女は真夏のひまわりみたいにカラカラと笑って言った。

「海に出るのよ、蛙さん。」

彼女
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