岬の家/佐東
 
黒く圧縮された午後の雲が視界を遮り 垂れ下がる
空との境目がわからない黒く塗られている海
ちぎれた風が 短い母音で波濤にあたってはくだけちる

だれも知らない だれも見たことのない 海の腹を突き破る船の舳先のような岬のとったん 家がある
ぼくは そこでうまれた







夏の始まりに 海の鍵を開ける
夏が終わると同時に 海の鍵を閉める
代々受け継がれてきた我が家のしきたり
とても重要な儀式なのだ と父さんはいう

父さんは とても寡黙な人だ
毎朝 早くから牛乳の空き瓶の中に入り込み 新聞のコラム欄を切り抜いては スクラップブックに貼り付けている
ある朝
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