SCHOOL/済谷川蛍
たが、やはり誰が見ても二十代は過ぎていると思うだろう。男の背後に位置する女性用トイレから、人影があらわれた。男は気配に気付いたがあえて振り返るようなことはせず、黙々と手を洗い続けた。爪の間から手首まで丹念に洗う。その洗い方は、彼がスーパーの農産部門でバイトをしたときに身に着けたものだ。
「ねえ」
男はその声に驚いた。振り向くと、女性が笑って自分の顔をのぞいていた。男は彼女を知っていた。彼女もどうやら自分のことを知っているようだった。それは男にとって複雑な心境だった。
「あなた、竹中くんでしょ?」
「うん。君は、沖さんだね」
「あー、覚えていてくれたんだー」
彼女の顔がパッと
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