雨の日の猫は眠りたい 2013/たま
 
下をかねた二畳ほどの板間の小窓から蒼い稲穂の波
打つ海が見えた。ささやかな営みをのせて季節をわた
る箱舟がたどりつく港はまだ遠くても、いま、この海
になにを捨てればいいのだろうか。
洗いざらしの生あたたかい衣服を身につけてちいさな
犬と散歩にでかけた。
日にやけたアスファルトの雑多な小径はいく日も降ら
ない雨を思い出そうとしては遠ざかる意識をつなぎと
めようとしていた。よく手入れされた畑の心地よい表
情や、人の手をはなれた田畑の夏草に埋めつくされた
投げやりな視線のなかをちいさな犬と歩く。
老いることは忙しいか。
ちいさくても犬のかたちをしたおまえは犬のしあわせ
を手に入
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