ひとつ 呼吸/木立 悟
こがね色の岩の洞
居ないものの影が映る
葉より上に浮かぶ捕食者
傷のように緑を焼く
骨と星 骨と星
白紙が白紙に落ちる距離
昇る泡のなか
線を描いて
猫の一歩 街の一歩
何もない夜の切れはし
白い音のかけらばかりが
地平をくりかえしくりかえし巡る
息を吐き 息を止め
ゆらめく陸のかたちを吸う
冬を縛る冬の糸
凍る川をすぎてゆく眼
となりあう小文字が青になり
意味を超えてかがやいている
雨のあとの灯 灯のあとの雨
壁も空も鉱の夜
聖人ではないものらが雪に埋もれ
ただ春を待ちつづけている
枝の嵐が幾度も
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