ほむらやまい/佐々宝砂
無機物でありながら有機的に増殖してゆく
このわけのわからない建物の
いったいどこへ?
それはどうしてもわからなかった。
身を隠しながら進んでいった。
芝生が夜露に濡れていた。
幽鬼の淡青がそこここにきらきらと光った。
腐臭が漂っていた。
彼らはみな正しく死んでいた。
うつくしいとおもった。
しかしどうあがいてもわたしは彼らではなかった。
手を握りしめる。
痛くなるほど握りしめる。
わたしの手のひらはぎょっとしそうな緋色。
決してうつくしいとは言えぬ生の色。
血液の色。
見られてはならぬ。
悟られてはならぬ。
建物に入り込み
白塗りの狭い階段を
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