ほむらやまい/佐々宝砂
 

無機物でありながら有機的に増殖してゆく
このわけのわからない建物の
いったいどこへ?

それはどうしてもわからなかった。

身を隠しながら進んでいった。
芝生が夜露に濡れていた。
幽鬼の淡青がそこここにきらきらと光った。
腐臭が漂っていた。
彼らはみな正しく死んでいた。
うつくしいとおもった。
しかしどうあがいてもわたしは彼らではなかった。

手を握りしめる。
痛くなるほど握りしめる。
わたしの手のひらはぎょっとしそうな緋色。
決してうつくしいとは言えぬ生の色。
血液の色。
見られてはならぬ。
悟られてはならぬ。

建物に入り込み
白塗りの狭い階段を
[次のページ]
戻る   Point(5)