失われた花々に対する二、三の刑罰/青土よし
であった。しかし、何をしていないかは明らかであった。何故なら馨しい花の香りも、小鳥の囀りも、月光の流れと調和した音色も、つまり、かつてこの家に於いて、祖母の為だけにうつくしかったもののすべてが、跡形も無く消滅していたからだ。
祖母の眠りから三十八年が経っていた。それから更に十一年後の夜更け、祖父は戸外で奇妙な音を耳にした。たき火のはぜるような音だった。それがひどく鼓膜に纏わりついて離れないので、十一年振りに家の外に出た。階上から見下ろす集落は、おのれの妻の寝姿と同じくらい、何の変化も見られなかった。住民は寝静まり、人影は皆無だった。石段の中ほどに、一匹の青い蝶が飛んでいるきりだった。蝶は手のひ
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