カブトムシとクワガタ/TAT
ない。獰猛な夜が外套を持たない者を呑もうと窓の向こうで手薬煉を引いている。陶器の皿の上ではスペアリブの骨と脂身が茶色いソースの曲線と混じり合って息絶えている。白々と光るフォーク。黒を含む深い緑色をしたトマトのヘタ。眠る前の安価な平穏に身を浸しながらテーブルの上の緑茶に手を伸ばす。明日は無論仕事で、明後日もその次もその又次も仕事に出掛けねばならない。たった一度きりの人生の時間を、生ハムのようにスライスして切り売りする。産地も味付けも定かではなく、防腐剤や着色料にまみれて真空に閉じられたそんな物を誰が買うのか。彼には到底理解できなかった。しかし輪は何故か回っていて、回っているものを止める事は誰にも出来
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