カブトムシとクワガタ/TAT
出来ない。弾き飛ばされて死にながら笑う事は出来るとしても。アスピリンやトランキライザーの為に書ける詩はないだろうか。そんな事を考えながら彼は闘技場の歓声を聞く。砂埃と風。牛と剣。赤い主題。通路に響くスパイクの音。暗がりから四角い光の中へと呑み込まれてゆくサッカー選手達。ホセ・メンドーサ対矢吹丈。彼は自分の頭の中のカブトムシとクワガタを戦わせる事にした。ずっとそうしてきたように。彼の頭の中のユリウスとカエサルは、戦いを戦う為に戦う。ずっとそうしてきた。
『お前の悲しみは偽物だ。お前の孤独も、お前の愛も、お前の強さもお前の弱さも偽物だ。全部が全部、がらんどうだ』
『それがどうした。多かれ少なか
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