蜃気楼にて乾杯/済谷川蛍
 
給20万そこそこの俺にはあまり相応しい店ではないかもしれない。
 窓際の席に座ると、夜の街を眺めるのが習慣のようになっている。電車の窓をのぞく子供のように、未だ新鮮であり続ける都会の風景を上空から望むのだ。ガラス越しに広がる煌びやかなネオン、人の群れ、車の流れ、広告、雑多猥雑、俗なる濁流、時代というにはあまりに過剰で急速な発展、まだ砂漠の国で暮らしたほうがマシに思えてくる。
 俺はいつも1人でここにくる。テーブルの上に洒落た硝子の花瓶があり、上品な白い花と向かい合っている。この花のほうが、大抵の女よりマシかもしれない。ふと先程見た巨大ディスプレイのCMを思い出し、ひどく下らないことを思った。
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