蜃気楼にて乾杯/済谷川蛍
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俺たちは、都会のラクダなのかもしれない、と。
ビルの上のクレーンや摩天楼を彩る航空障害灯の点滅に気を取られながら、ラクダと仕事について顧みる。タキシードを着た、俺より若いラクダが、いかにも慣れた手つきで、毒の入った蜜を空のグラスにそそいでいく。透明なグラスは赤紫色の美しい光沢を放ち、その中に都会の明かりが混ざりこんだ。俺はグラスを軽く持ち上げ、さりげなく白い花を透かしてみた。少し楽な気持ちになった。なので、本当に意味もなく、誠に勝手ながら、今夜は、すべてのラクダたちに乾杯といこう。
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