人魚/ホロウ・シカエルボク
 
悪く続いていたのです。もう少し早く、かれを訪ねることは出来なかったのか?ぼくはそんな風に考えました。仕事の帰りなんかに、ほんの少しでいいから、かれの部屋を訪ねることは出来なかったのか…しかしそんなことを考えたところで、Nが帰ってくるわけではないのです。何度も夢を見ました。窓のところでぶらりと垂れ下がったNの夢を。その目をが開いて、ぼくをじっと眺めている、そんな夢を。

 何週間かのち、ふたたびNの部屋を訪ねました。年老いたNの母親に頼まれて、かれの遺物を整理しに行ったのです。ひどく暑い、やはりよく晴れた日でした。部屋の中では、主を失くした小動物や魚たちが、餌を食べることが出来ずに何匹も息絶えて
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