人魚/ホロウ・シカエルボク
 
あたりで、なにか小さな生き物がたくさん蠢いているように見えました。ぼくは階段を転がりおちて、一階の端の部屋に住む大家のドアをノックしました。事情を話し、警察に連絡をしてもらい、警官の質問に答えました。そして日が暮れるころ解放されて、そのあとはどうしていたのか…家に帰らずに、あちこちを彷徨っていたような気がします。Nが、自分の命と一緒に、ぼくの何%かを引っこ抜いて行ったみたいな、そんな感じが長く、長く続いていました。

 本来ならば、もう少し早く、Nは発見されていていいはずでした。だけど、里帰りや、旅行などで、Nが首を吊った日を中心とした数日間、アパートにはほとんどだれも居ないという状態が運悪く
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