錆びた世界の朝/ホロウ・シカエルボク
廃車の中だったからまるで気付かなかった
姉は絵描きが絵を見るように
少し身体を離して弟を見つめた
夜が更けてすぐのことだった
姉は口を開かなかった
もう話しかけても届かないことは判っていた
そうして
もうすぐ自分がそんなふうになってしまうことも
姉は
弟の僅かに開いた眼の中をじっと見つめた
彼のくもった網膜に
自分の瞳が映るのかどうか試そうとしているみたいに
とっくに感情は使い果たしていて
何も受信しないラジオのようだった
姉はもう一度弟を抱いた
もう暖め合うためではなかった
そして眼を閉じると
その人生で最後の夢を見た
もう身体が思うように動かない、寒
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