錆びた世界の朝/ホロウ・シカエルボク
 
女は
ある高層マンションの一室で
歯を磨きながら新聞の片隅にその姉弟のニュースを見つけ
内からの光が遮断されたような眼をした
新聞は畳まれ
歯ブラシは洗面所に戻され
女は食卓の椅子に腰を下ろした
小さな二脚の椅子と
向かい合う一脚の大きな椅子
その椅子に深く腰を下ろし
瓦礫の山を見つめるような顔をしてしばらくじっとしていた
壁にかかった時計が九時を告げるまで
女はそうしていた


泣き叫んでいたのは誰?


先に死んだのは弟の方だった
しばらくそうと気付けないほど静かに死んでいた
姉が気付いた時には身体はとうに冷たくなっていたけれど
凍えるように冷たい廃車
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