サミュエル・テイラー・コールリッジ『クーブラ・カーン』(“Kubla Khan”)/春日線香
 
なき地下の大海へと消えていった。
そしてクーブラ王はその奥処に聞くのだ
遠い祖先の声、戦いを告げる鬨の声を――

  おお、歓楽の宮の影が
  波の間に間に漂う。
  地下よりの怨嗟の声は
  宮殿の機構を通して妙なる楽の音に変わる。
これぞ人の世に二つとない楽器
氷の喉を備えたクーブラ・カーンの宮殿である。

  かつて私は夢想の裡に
  ダルシマーを奏でる乙女に出会った。
  アビシニア出の娘は
  楽器の音色に乗せて
  アボーラの高峰を謡ってみせた。
  もしも彼女の歌声を
  もう一度呼び覚ますことができるなら
  言語を絶した喜びに包まれるだろう

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