サミュエル・テイラー・コールリッジ『クーブラ・カーン』(“Kubla Khan”)/春日線香
心惹かれるその光景は
下弦の月に狂わされて邪悪な恋を求める
女の悲嘆の叫びをどこか思わせる!
そしてこの裂け目からは止むことのない混乱が
あたかも大地が苦しみ喘いでいるかのごとく
力強い泉水の奔流となって刻一刻と湧き立つ。
その真っ只中で断続的に荒れ騒ぐのは
木っ端微塵に粉砕された巨岩の欠片、まるで跳ね散る霰のような
あるいは脱穀機の下で粉砕された籾殻のような礫石である。
石はさまでに激しい流れに巻かれて跳ね飛び
聖なる川は盛大に飛沫を散らせていた。
五哩ばかりもくねくねと迷走を続ける奔流は
森を洗い、谷間を乱し、やがてあの
人知の及ばぬ洞窟に流れ込んだと見るや
命なき
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