まだ生きている人に向けた四章/破片(はへん)
持っていた傘を思わずあげてしまった。「傘はどうされたんですか」と尋ねると「突然の雨で……あなたはいいの?」なんて言うものだから「ぼくんち、それなんですよ(真後ろを、親指で)。もう一本持って来ないとな、それじゃ、行ってらっしゃい」と言い捨てて踵を返した。多分老婆は笑っていたと思う。ぼくはこうやって傘を失っていく。最後の一本を如何にして失うのか、願わくば言葉の通じない渡し方を。あんぶれら、あんぶれら。発声さえない。
Dead flower.
ぼくが仕事に疲れると、誘うようにして十歩先に現れる女の子がいるという話。女の子は花畑を探している。ぼくは先導するふりをして、実は彼女の行く先に追従す
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)