まだ生きている人に向けた四章/破片(はへん)
復の兆候を見せて退院したらしい。ぼくの母親が「家族だけでゆっくりさせてあげなきゃ」と言って、ぼくらは友人の父親が帰還している間、声も聞かなかった。次に再び入院暮らしを始めて、ぼくが顔を見せに行った時、つい数か月前まで同じ人間として接してきた彼が、最早別種の生物となっていた。何人かの患者が同居するその空間には、脳疾患特有の大きな、おおきな、鼾だけがあった。
友人の父親が死んだ。父親を失った友人は、父親に倣ってラークを好んで吸うようになった。ぼくは彼の通夜で「ミチオ」と呟いた。誰もかれもが啜り泣く空間で準備されていた緑茶の味を、ぼくは忘れない。それは甘くて、しっかり人間の中で認識され消費されていっ
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