まだ生きている人に向けた四章/破片(はへん)
いったのだから。ぼくや、友人は煙草を吸える年齢になった。それを告げるために棺の中にマルボロの吸殻を放り込んでおくのを忘れたのが、心残りだ。脳腫瘍の人間に、意思や言葉は通じるだろうか、ぼくはそれでも伝えてやるべきだったと、後悔する。出された緑茶を飲み干せなかったのは、多分、ぼくが人間だったからだ。
Umbrella,umbrella.
新宿でぼくは知らない人に声を掛けられた。煙草の煙が不自然なほど少ない街で、あらゆる人種がいる多民族国家で、人工と清潔と雑踏とが、鬱蒼と生い茂るジャングルで。「Excuse me」はじめの一言はこうだったと思う。二人組の日本人ではない誰かで、それでも男性だ
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