空に浮かぶ棺/まーつん
 
とは出来ない

  たとえ世界が
  崩れ落ちたとしても

  あった筈のことを
  なかったことには出来ず
  忘れることさえ 許されない

  それを手放すというのなら
  来世に生きるより ほかはない  ゛



  そんな言葉を囁く声が
  脳裏の奥をくすぐっていた

  裸足につっかけた
  ふかふかのスリッパ
  さあ出掛けようかと
  羽織りかけたまま
  ボタンもかけていない
  薄い青のワイシャツ 
  そんな恰好で

  私はじっと
  棺を眺めていた

  両手をついた
  テーブルの感触は
  妙に冷ややかで

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