空に浮かぶ棺/まーつん
 

  生まれ変わった気分で
  食後の歯磨きをしていた
  ある昼下がりのことだった

  ふと 居間の窓に視線が行くと
  褪せたジーンズ色の秋空に
  小さな黒点が浮いていた

  殺風景な
  都市の写真に張り付いた
  ちっぽけなゴミのようだったが
  目を凝らしてみたところ

  言うまでもなく
  あの棺だった

  気怠い午後の空気に微睡む
  高層マンションの棟々

  その薄雲漂う頂の間を
  数年前 棺に納めて
  捨て去った筈の
  蒼き日の苦い記憶が
  悠然と漂っている


 ゛
  思い出を
  葬り去ることは
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