うつくしみの うつつ/木屋 亞万
 
「草枕旅ゆく君を愛(うつく)しみ副(たぐ)ひてぞ来し志賀(しか)の浜辺を」(万葉集 巻四566)

或る女は旅に連れ添い
まだ若い馬にまたがりシカの浜辺へ
青々としたうつくしみの心でもって
背の低い草を枕に地の音を聞く
波音に混ざる寝息のやさしい気流
うす曇りに乱反射する光を浴びて
出立のたびに足元から白く染め直す



「我が夫汝(せな)を筑紫へ遣りて愛(うつく)しみ帯は解かなな奇(あや)にかも寝も」(万葉集 巻二〇 4422)

或る女は家を守って
脂の出る柱をぼんやり見つめては
口元をきゅっと結びなおし
秒針の硬い音を聞かない努力をする
寝心地
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