2013-3-31/南条悦子
 
と小豆の粒粒を孕んでいる。パン。ステンレスのスプーンを持つ手が震えて動かない。どうしてだろう。 マスターが僕の視線の中に溶け込んでいる。僕は見つめられているのだけれどマスターの手によってコンパクトに折り畳まれている。そう。重くのしかかる圧迫は僕に含まれてはならない。居てはならない。マスターは僕の頬骨を噛み砕くことは僕への表明であるし、だから、僕はマスターを見つめ返すときは敬礼するのがいちばんいいのだと思う。僕は震える手をテーブルで休ませてあげて他に注文しておいたレモンスカッシュを飲みたくなった。ストローをビニールから取り出して透明の層のなかに滑り込ませた。ペンペンペン。黒いストローはレモンの果肉を
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