役者は夜になった/nonya
 

役者は
媚びてしまった

目の前の毒リンゴを
食べてしまった

役者が
安っぽい悦楽で
身体中を痺れさせている間に

観客は
優しい嘲笑を浮かべつつ
足音もたてずに去っていった

慌てて
毒を吐き出そうとしたが
出てくるのは毒ではなく
リンゴばかりだった

役者は
初めて自分の糖度を知った

ほどなく
役者の顔と身体と性根は
青黒く変色していった

やがて
項垂れたまま楽屋に戻る頃には
とっぷりと暮れてしまった

誰も
役者には気づかない
彼自身が夜になってしまったのだから

星の虫喰い穴と
月のカギ裂きから
人の夜を
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