看取り(6)/吉岡ペペロ
 
りをぼくは裏切りとは思っていなかった。

でも息子はちがうだろう。

息子はママがいないことでぼくを責めたことがないような気がする。だから息子は妻を責めているのではないか。

息子がもしぼくも妻も責めていないのだとしたら彼はどれだけ苦しいだろう。

息子の寝顔を思った。胸に鈍痛が走りぼくは思考をとめた。

この痛みは母国のことに違いないと思ったからだ。

杉下さんは持ちこたえてくれた。午前のひかりの家路を辿りながら息子のホームでの話を聞いていた。

すき焼き食べに来なさい、って言うよ、

すき焼きか、パパもよく言われるんだ、

いっしょに行こうよ、すき焼きって、
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