看取り(5)/吉岡ペペロ
に腰掛けていた。
ぼくの言語でミトリとは居場所という意味だった。ぼくの日本での居場所がここだと思うといつも茫然とした。
この国で息子を育てたかった。
看取りをはじめてニ人の方の最期を看取った。
内戦や飢餓がいやでこの国に居着いていたのにこんなところがぼくの居場所だ。家族を裏切った罰かも知れない。
杉下さん、死なないで、
ぼくは彼女の顔のあたりを見つめていた。
鼻からでているチューブがすこし白く光っている。川のようだ。布団は荒れたなだらかな山。それを夜が満たしている。星はベッドまわりの計器の明かり。そんな幻を真剣に遊んだ。
杉下さんからたまに音がする。
[次のページ]
戻る 編 削 Point(7)