エイトビット摂氏三十六度/魚屋スイソ
 
て敵が死んでいく。エロ本に裸を載せている女たちも、いつかは死ぬのだろうか。だれかに丸いボタンを押されて、コマンドを入力されて、ダメージを与えられて、カモメの鳴き声みたいな音をさせて、死ぬのだろうか。インクでできた女たちと、ドットで描かれた敵たちと、海辺の街で育ったきみと、熱に閉じ込められたぼくとでは、何が違っているのだろう。画面が汗で滲んでいる。きみは眠っている。このまま敵を倒し続けて、塔を登っていけば、エイトビットのぼくはしあわせになれるだろう。摂氏三十六度のぼくは、親指で丸いボタンを押す。
 きみは、ぼくの名前を叫んで目を覚ます。色の濃い夕日が廃小屋の中で濁りを増している。オレンジジュースが
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