エイトビット摂氏三十六度/魚屋スイソ
スが飲みたい。ぼくの隣に駆け寄り、膝を抱えて座り込んだきみが、か細い声で夢の話をしはじめる。ゲームボーイの画面にはエンディングのロールが流れている。ぼくと首を絞め合っている最中、エスパーに目覚めたきみはからだ中からギザギザのエフェクトを飛ばしてこの街を滅ぼす。静止した画面に、イタリックの書体でエンドという文字が表示される。きみはだれもいない海に浸かって自分のからだを融かすが、意識が消えないまま海そのものになってしまう。ゲームボーイの電源を切る。冷たい水を湛える宇宙として、音のない慟哭をあげ、きみはぼくを産む。エロ本の山の上にゲームボーイを置いて、泣いているきみに顔を向ける。オレンジ色のモザイクがぼくの視線を遮る。エイトビットのぼくはしあわせになった。摂氏三十六度のぼくは鱗だらけの腕をきみの首へ伸ばし、親指に力を入れる。きみは俯いたまま、ふるえる手でぼくのからだをなぞる。カモメが鳴いている。
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