ひとり旅/凪 ちひろ
ひとり旅さ
今晩はここに泊まることにしよう
粗末な部屋はほこりをかぶっていたが
元気なときは きれいだったのだろう
鍋も 本も あるべき場所に
丁寧にしまい込まれていた
「なぁ 旅人さん
その棚の上にある
緑色の本を 取ってくれないか?」
きみは本を手に取り ほこりを払い
老婆の手に渡した
老婆は微笑みを浮かべて 一枚一枚ページをめくっていく
それは彼女の日記
物ごころついたときから 少しずつ書き溜めてきた
「ほら見ておくれよ
あの子が生まれたとき
あわてて帰って来る途中で
だんなはつまずいて 水たまりにはまったのさ」
それからきみ
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