ひとり旅/凪 ちひろ
 
きみは 一晩中聞く
老婆の長い人生の話を
どこにでもある でこにでもない
ありふれた 特別な 人生の話を

明くる朝 日の光を浴びながら
老婆は 息を引き取った
きみの頬には 気がつけば涙
とめどなく溢れて 止まらなかった



ひとしきり泣いた後
きみは祈りを捧げ
前の晩に聞いた 老婆の子どもとだんなの墓へ
その横に大きな穴を掘った
半日がかりで 精一杯掘った

老婆を穴に横たえて
土をかぶせ 十字を立て
花を飾った
最後の祈りを捧げた後
きみの目に映ったのは
新しい世界

こんなにも花は 鮮やかだっただろうか
こんなにも草は 優しく匂っただろうか
踏みしめる大地は なんて暖かいのだろう
川の水は なんて豊かなのだろう



それからのきみのひとり旅は
何もかも新しい 素晴らしい世界を行く
何度も 何度も 立ち止まっては
美しい世界の 景色を 目に焼き付けた



長い旅を終え 家に帰ってきたきみ
胸の中には いくつも光っていた
本当に欲しい物
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